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ライターになるために!

 

作家からみた、編集者という職業:第2回

~小説家・雫井脩介~

 

 作家にとって、編集者に求める一番大事なものは何でしょうか?

 適切で細かい仕事運びの腕。作品を高める力となる確かな眼識。取材などをバックアップできるフットワークと豊富な人脈......それらは編集者の武器ですが、作家との関係においては枝葉の部分です。

 それらより大事なもの......それは、一言で言うと、信頼感だと思います。

 信頼感には、仕事ができるということも含まれるかもしれませんが、それがすべてではありません。逆に言えば、多少編集者にルーズなところがあっても、作家の仕事に重大な支障をきたすものでもない限り、「しょうがないな」と甘く見ることができます。それはやはり、信頼感のある編集者の場合です。

 では、その信頼感の芯になるものとは何か......僕は、根本的なところで作家の味方になれる人かどうかということだと思っています。

 その作家の担当編集者なのだから、味方であるのはごく当然のことだと思われるかもしれません。普通に仕事をする分には確かにそうでしょう。

 しかし、作家と仕事をしていく中では、いろんな事態が待ち受けています。例えばですが、自分の会社と、担当する作家という対立軸ができた場合はどうでしょうか。

 新人の頃に僕は一度、書き下ろした長編でボツを食らってしまったことがあります。

 そのときは、書き上げた原稿を編集者が読むのに二カ月や三カ月かかるなど、今から考えればおかしいことだらけでしたが、それでも、その編集者が自分の味方でないなどという考えは頭によぎっていませんでした。何度か編集者の指摘を受けて書き直しをし、まあ、これでいいだろうということになって、原稿はデスクに上げられました。

 しかし、それからまた何カ月かが経ち、ようやく、デスクから作品についての話があると言われたときは、最初に書き上げてから優に一年を過ぎていました。

 時間的にもそういう経過をたどっていましたので、ある程度の予感はしていましたが、デスクと担当編集者の二人と顔を合わせて伝えられたことは、「残念ながら、うちからは出せません」ということでした。

 予感はしていましたし、ショックを受けたというわけではなかったのですが、一生懸命書いたのに、どうしてボツなんだろうという疑問は残っていました。自分と同じような新人作家の作品が普通に出版されている流れを見ているので、それらと自分の作品の何が違うのかということなどが、よく分からなかったのです。

 そこで、僕はいろいろデスクに質問をして話を聞きました。すると、そのうち担当編集者も、その作品の何が物足りないのかということを、デスクと一緒になって話し始めました。僕を納得させようと思ったのかもしれません。

 しかし、僕は、(いや、あんたはこれでOKだと思ったから、デスクに上げたんじゃないのか?)という呆れる思いで彼の話を聞いていました。いつの間にか僕はすっかり、一人で二人の人間から作品を否定されるという立場に立たされ、ボツという結論以上に寂しい思いを味わうことになってしまったのです。

 結局、こういう場において、その担当編集者は作家の味方でいることを放棄したのだと言ってもいいでしょう。

 もちろん、これは作家側から見た感覚の話であり、作家と心中するくらいの気持ちが必要なのかどうかは、編集者個々人の価値観に委ねられます。ただ言えるのは、作家の味方でいるということは、それほど簡単な話ではなく、作家は場面場面で編集者のことをよく見ているということです。

雫井脩介氏 プロフィール

作家からみた、編集者という職業:小説家/雫井脩介② 雫井脩介(しずくい・しゅうすけ)


1968年愛知県生まれ。2000年に第4回新潮ミステリー倶楽部賞受賞作『栄光一途』でデビュー。
04年の『犯人に告ぐ』で第7回大藪春彦賞を受賞。
同作は「週刊文春ミステリーベストテン」第1位に輝き、ミリオンセラーとなった。
他の著作に『虚貌』『火の粉』『白銀を踏み荒らせ』『クローズド・ノート』『ビター・ブラッド』『犯罪小説家』『殺気!』がある。

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