トップページ>編集者になるために!>第6回 :よく撮るためにはよく見ること ~物撮りを学ぶ~
2010 / 07 / 21
室内イベントのように、場所に制限があり、被写体もこちらの思い通りには動いてくれない撮影は難しいものです。それではすべてがコントロールできる環境であれば、撮影は簡単なのでしょうか。物撮りでは撮影中に自由に動くことができ、被写体も思い通りに設置することができます。にもかかわらず、多くの編集者・ライターの皆さんは納得のいく写真を撮ることができずに悩んでいるようです。いっけん単純なようで実は奥が深い物撮りを学びましょう。
物撮りの事前チェック項目は3点
物撮りのポイントもこれまでの撮影とは基本的には変わりません。何が被写体の特徴で、どう見せたいのか。それを撮影する前に考えることです。写真は2004年に『週刊朝日』で連載された「百モノ語り」の1枚 。被写体は骨格が美しくデザインされた傘です。
では、私がこの傘を撮るときに考えたことは何でしょう。傘に限らず物撮りをする前にチェックすべきは大体次の3点です。
1、誌面で使われる「写真のサイズ」
小さく掲載されるのであれば、全体像を撮るよりも思い切って部分的に切り取ったカットのほうがインパクトを与えることもあります。
2、「モノの特徴」
何がそのモノらしい点なのかが掴めないと、撮影してもぼやっとした印象になってしまいます。伝えたい特徴をひとつに絞ることがコツです。
3、「特徴を際立たせている部分は何か」
あれこれ要素を入れようとせず、アピールポイントを最大限に引き出す見せ方を考えてみましょう。
他にも気にすべき細かなところはありますが、とりあえずはこの3つが頭の中で整理できれば、完成イメージを描くことができます。「百モノ語り」の写真サイズはB5 雑誌1ページ分。独特なフォルムを活かすために傘全体を入れることのできる、充分な大きさでした。骨のカーブを際立たせるには、傘は開くしかありません。読者が手に持っているかのように傘を宙に浮かせて、骨格をシルエットとして強調しました。ここまで頭の中で描ければ、被写体の配置は決まりです。
被写体とにらめっこする
ただし、なんとなくモノを見ているだけでは、それぞれのポイントが浮き上がってきません。大切なのは被写体を360度くまなく観察すること。被写体とにらめっこをする意識で、細部まで見ましょう。意識的に見ることで、作り手の思いやこだわりが見えてきたり、被写体の方から、「ここをこんな感じで撮って!」というサインに気づくことができるようになります。
モノをどう置くかを決めたら、カメラを手に持って、撮影アングルを考えます。この写真では傘の斜め下から見上げる姿勢でシャッターを切りました。傘の外側と内側のバランスに配慮しつつ、骨のラインがきちっと見える角度で撮っています。僅かなずれで写真は変わってくるので、目で確認しながら撮影アングルを決めましょう。
光の加減で見え方も変わる
同時に、ライティング(照明)にも気を配ります。物撮りの難易度を上げている一因はこのライティングです。プロのフォトグラファーはストロボなどの照明機材を駆使してモノに立体感を与えます。
三次元を二次元で見せる写真はどうしても平面的になりがちです。傘の写真では、手前左側にハイライトがかかっていますね。黒一色の傘に濃淡を出すことで、メリハリを付けて輪郭を写しだしています。
編集者・ライターの皆さんは、できれば窓際で撮影してみてください。自然光に勝るライティングはありません。一般的に、左右どちらかの後ろ斜め30〜45度から光が当たる状態が自然な立体感を作ります。そのとき光を見ようとするのではなく、影の表情の変化を観察してください。被写体を動かしながら、光のあたり具合の微妙な変化で、モノの見え方が変わってくることに気付くはずです。
よく見る。物撮りのコツを一言でいえば、この一点に尽きます。やみくもに撮るのではなく、最終的な写真の目的とサイズを念頭に置いて、モノの特徴や意図したイメージを引き出せる配置・角度を考えてから撮りましょう。撮影角度をちょっと変えるだけでも、モノの表情は変わります。表情の変化が見えてくると、物撮りも面白くなってきますよ。
善本喜一郎氏 プロフィール
善本喜一郎(よしもと・きいちろう)
1960年東京都生まれ
フォトスタジオKiPSY代表
社団法人日本広告写真家協会常務理事
自身が代表を務めるフォトスタジオKiPSYには多くの著名人がポートレイト写真を撮りに訪れる。
また、2008年より宣伝会議 編集・ライター養成講座の写真担当講師も務める。
善本さんのフォトスタジオ
KiPSY HP http://www.kipsy.jp
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