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編集者になるために!

 

作家からみた、編集者という職業:第1回

~小説家・雫井脩介~

 

 一口に編集者と言いますが、僕が主に知っているのは書籍編集者の世界です。

 学生時代、母校の就職セミナーで、ある出版社の書籍編集をしているOBの話を聞く機会がありました。その人は当時誰でも知っているようなベストセラーが自分の編集部から出たときの話などもしてくれたのですが、それはサクセスストーリーのようなドラマめいた話ではなく、「何で売れたのか分からない」「そんな大した本ではない」というずいぶん皮肉めいた言い回しのものでした。

 それも含めて、その人が自分の仕事についてあまり楽しそうには語っていなかったこともあったので、僕の頭の中には「書籍の編集って面白いのかな?」という疑問がふくらみました。

 雑誌の編集には、編集者が斬新な企画を立て、締め切りと闘いながらも華やかな誌面を作り、次々に世に送り出していくというような活気に満ちたイメージがあるのですが、書籍の編集というのは、著者に執筆を依頼し、それが出来上がるのをただひたすら待つというのが主な仕事ではないか......それを出版したところで、ヒットするかどうかは著者が面白いものを書けるかどうかにかかっているだけだし、編集者の仕事そのものには、それほどの重要性や、あるいは自身の能力を発揮できるような余地などは、ほとんどないのではないか......というような気がしたのです。

 だから、僕はそのOBの方に質問してみました。書籍編集の仕事の面白さややりがいって何ですかと......。

 それに対して、OBの方は何と答えたか?

 それは残念ながら忘れてしまいました(笑)。

 書籍編集には書籍編集の面白さがあるというような話をしてくれたはずなのですが、今思い出そうとしても、どんな話だったのか、まったく思い出せないのです。

 ただ、その話をすっかり忘れてしまっていても、学生時代とは違うので、今は書籍編集の仕事についての魅力は分かっているつもりです。自分自身、出版社に入って書籍編集の仕事を経験しましたし、作家になってからは各社の編集者と付き合い、一冊の本を作るに当たって、編集者の果たす役割がいかに大きいかということを客観的にも感じているからです。

 作家にとって、編集者というのは、単に自分の作品を本にしてくれる人というだけの存在ではありません。

 まず、書き上がった原稿を最初に読んでもらう相手というだけで、編集者は作家にとって特別な人間なのです。編集者に原稿を渡すときには、新刊がいよいよ書店に並ぶときにも似て、作品が世に出る第一歩というような、新鮮な期待感と不安感が入り混じった感覚があるものです。読み終えての一言を作家は楽しみにしていますし、編集者は読者代表としての確かな感性を期待されています。

 その感性が信頼されていれば、作家の創作にも大きな影響を与えることができます。

 あるサスペンス作品を書いているとき、僕は視点者の名前を出さないシーンを随所に挿入することで、何者かが裏で暗躍しているという謎めいた雰囲気を出そうとしました。サスペンスではよくある手法です。しかし担当編集者は、視点者が誰だか分からないシーンは、読者が共感できず読みづらいと言ってきました。最初聞いたときはずいぶん素人っぽい意見だなと思いましたが、一人になって考えてみると、確かにその手法は作家の自己満足にすぎないと思えてきたのです。その編集者の指摘はまさに読者の視点からのもので、理解できたときは目から鱗が落ちたような感覚さえ湧いたので強く印象に残っています。

雫井脩介氏 プロフィール

雫井さんの最新刊『殺気!』雫井脩介(しずくい・しゅうすけ)
1968年愛知県生まれ。2000年に第4回新潮ミステリー倶楽部賞受賞作『栄光一途』でデビュー。
04年の『犯人に告ぐ』で第7回大藪春彦賞を受賞。
同作は「週刊文春ミステリーベストテン」第1位に輝き、ミリオンセラーとなった。
他の著作に『虚貌』『火の粉』『白銀を踏み荒らせ』『クローズド・ノート』『ビター・ブラッド』『犯罪小説家』『殺気!』がある。

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