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作家からみた、編集者という職業~小説家・雫井脩介~
2010 / 03 / 17
作家にアプローチするとき、編集者としては何に気をつけるべきでしょうか。
長編作品を依頼する場合、電話のやり取りだけで話が決まることはなく、顔合わせが必要となります。この顔合わせで執筆の確約まで取れればいいのでしょうが、作家のほうも先の予定が詰まっていることが多く、たいていの場合は、そこがまずスタートラインということになると思います。
「編集」「出版」という言葉でくくれば、誰がやってもどこがやっても大して違いはないという言い方ができるかもしれません。しかし、そこを何とか「うちで出しませんか」というのが執筆依頼のベースになります。そのためには、似たり寄ったりではなく、自分なり自分の社なりの強みや売りを把握しておく必要があります。実際問題、編集者個々はもちろん、出版社個々にも性格の違いがあり、それらの相性が作家との関係には少なからず影響を及ぼしてくるものです。
そこがおざなりでは、せっかく顔合わせをしても、作家のほうに「○○社の編集者と会った」という以上の記憶を残さないことになってしまいます。作家が執筆ペースや今後の予定を問われるまま答えるばかりで、編集者が自分のことや会社のことをあまり語らずに終わると、結果的にそうなってしまいます。
作家のほうも、この編集者はどういう人なのだろうか、この出版社は自分の作品をどう扱ってくれるのだろうかと思いながら顔合わせに臨んでいます。自分がどんな仕事をしてきたか、どういう環境で働いているかということを尋ねられたときには、曖昧に流したりせず、相手にもイメージしやすい言葉で丁寧に語ることが大切です。
また、自分を語るという意味では、その作家の過去の作品に対する感想を伝えるのも、自身の嗜好を明かすことにつながるので、大切なことだと思います。とにかくどこが気に入ったのかを素直に話せばいいでしょう。そのことが、一緒に仕事をするときの作品作りに影響してくる場合も十分あり得ます。
作家に対しては、媚びを売る必要はまったくありませんが、総じて仕事に関するプライドが高い相手だということは、理解しておいてもいいかと思います。作家というのは、気持ちのこもった作品が容赦なく批判や誹謗にさらされる仕事をしています。看板を背負うのも守るのも自分一人です。自分の作品をけなす批評家に対し、笑って握手を求める作家はいません。
だから編集者も、自分が担当する作品以外で、こうしたらよかったのにというような意見があったとしても、それを口にすることのメリットはないと思っておくほうがいいでしょう。駄目出しは自分が担当するときにやればいいのです。
一般書では、編集者がそれまでの著者の仕事をヒントにして、本作りの方向性を示すプロットを作ったりしますが、文芸の場合、どんな作品を書くかは、ほとんど一から十まで作家の手に委ねられます。作品のジャンル的なものをリクエストしてくる編集者もいますが、それが功を奏するかどうかはケースバイケースと言えるでしょう。作家の興味をつかまないまま、細かい設定を一方的に提案しても、編集者の独り相撲に終わってしまいます。物書きといっても、書かされることは嫌いなのです。
しかしその一方で、自分が書きたいものに対しては情熱を惜しみません。編集者の何気ない一言からアイデアがふくらんだりするのもよくあることです。作家が自発的に書きたくなるように仕向け、そのお膳立てをうまくこなしてみせるのが、編集者の腕というものです。
雫井脩介氏 プロフィール
雫井脩介(しずくい・しゅうすけ)
1968年愛知県生まれ。2000年に第4回新潮ミステリー倶楽部賞受賞作『栄光一途』でデビュー。
04年の『犯人に告ぐ』で第7回大藪春彦賞を受賞。
同作は「週刊文春ミステリーベストテン」第1位に輝き、ミリオンセラーとなった。
他の著作に『虚貌』『火の粉』『白銀を踏み荒らせ』『クローズド・ノート』『ビター・ブラッド』『犯罪小説家』『殺気!』がある。