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作家からみた、編集者という職業~小説家・雫井脩介~
2010 / 01 / 20
作家から見て困る編集者というのは、どういったタイプでしょうか。
もちろん、基本的な編集能力が足らない人というのは困ります。約束を守らない、理解力がない、ミスが多い、などなどです。しかし、編集者というのは今も昔も人気職業ですし、それなりの能力を持った人が採用され配属される仕事ですので、あからさまに仕事ができない人というのはあまり見かけません。いたとしても、それは編集部内で悪目立ちするでしょうから、早晩第一線からは下ろされてしまうと思います。
そういうタイプではなく、もしかしたら編集部内では有能と見られているかもしれないものの、外部から見ると困り者の編集者もいます。すべてにおいて自分の都合を優先させ、相手にもそれを呑ませることこそが仕事だと思い込んでいるような人です。編集者は気配りに長けている人が多いので、こういうタイプは外部に対して悪目立ちしてしまいます。
以前、ある雑誌の編集部から封書が送られてきました。その雑誌で過去に掲載していたミステリー作家のインタビューなどをまとめてムックにしたいので、ついては同封した同意書にサインして送り返してくれというものでした。締め切りも記されていて、その締め切りまでに同意書が届かなければ、賛同しなかったものとして、ムックには載せられないということも書いてありました。
通常、こういう文書を送った場合、編集者がとる次の行動としては、数日後に送付先に電話をかけ、文書が届いているかどうかの確認と、相手側に生じている疑問の解消、そして、同意書を送り返してもらうことの念押しなどをするのが仕事上の常識だと思います。
しかし、このときムック企画の担当編集者からの電話はありませんでした。僕が新人の部類に入る作家だから省いたのかもしれませんが、そもそもこの編集者とは会ったこともありませんし、文書を一方的に送られてきても困ります。僕はムックに載せてほしいとも思わなかったので、これを放っておきました。
その後、文書に記されていた締め切りもとうに過ぎ、このことをすっかり忘れていたある日になって、その担当編集者から電話がかかってきました。もうムックの校了間際なのに同意書が届いていないと言います。別に載せてもらわなくて構わないと返すと、みなさん同意してもらっているから、あなたも同意してもらわないと困ると言うのです。
ずいぶん身勝手な話だなと思いながらも、僕は、載せるのは構わないが、インタビューの対象になっている本はもう絶版になって文庫が出ているので、書影は四六判のものから文庫判のものに差し替えてほしいと言いました。今さら絶版になっている書影を出されても仕方がないからです。
しかし彼女は、もう校了間際だからそれはできないと突っぱねてきました。ひたすら、これで認めてもらわないと困るという言い分です。なぜ何カ月も送りっぱなしにして、そんな融通も利かない段階になってから電話してくるのでしょうか。僕はもう、勝手にしてくれと言うしかありませんでした。その後、そのムックで発生したいくばくかの印税の振り込み先を訊いてきましたが、進んで同意したわけではないので受け取りを断りました。
その編集者は部内でこういう仕事を任される立場にあり、結果としては、さくっと一仕事こなした形になったわけですが、果たして本当に有能な編集者と言えるのでしょうか。
作家の仕事をしていると、自分の担当編集者以外にもたくさんの編集者と会いますが、こういうタイプの編集者の名前は忘れないものです。二度と関わり合いになって嫌な思いをしたくないからです。
雫井脩介氏 プロフィール
雫井脩介(しずくい・しゅうすけ)
1968年愛知県生まれ。2000年に第4回新潮ミステリー倶楽部賞受賞作『栄光一途』でデビュー。
04年の『犯人に告ぐ』で第7回大藪春彦賞を受賞。
同作は「週刊文春ミステリーベストテン」第1位に輝き、ミリオンセラーとなった。
他の著作に『虚貌』『火の粉』『白銀を踏み荒らせ』『クローズド・ノート』『ビター・ブラッド』『犯罪小説家』『殺気!』がある。