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最終回

出版社に入る! 編集者になりたいあなたへ。編集の仕事をしてみたい、でもその実態は......?編集者を目指す学生さんからの疑問に、『働く、編集者』の著者であり、『週刊現代』前編集長・加藤晴之さんに答えてもらいました。

Q5
これから編集者を目指す人たちへのアドバイスをお願いします。


A5
わたしが『週刊現代』で編集次長をやっていたころ、バブル経済がはじけて、イケイケの潮があっという間に干上がると、これまで水面下に隠れていたヤクザや詐欺師の経済犯罪や大銀行の悪事が次々と発覚した。

就職戦線も激変、ディスコ(クラブ↑とはまだいわなかった)で扇子をもって踊り狂っていても、バンバン企業から内定をとりつけることができた超売り手市場から一転、いまのような氷河期=超買い手市場に変わった。

そんな端境期に入社してきた新入社員の前で、中堅社員として自身の体験を語り、新入社員の質問をうけたことがある。

その日は締め切りで完徹(完全徹夜)。「このクソ忙しいのに、朝から、右も左もわからんヒヨコ連中に話するの、ったるいなー。でも、かわいい女子はいるのかなー」ぐらいの気分でのぞんでいたのか、ぼーっとしていて、自分がどんなことを話したのかまったく記憶にない。

たぶんテキトーにきれい事をならべて、3K職場(って死語ですかコレ? 意味は調べてください)の『週刊現代』を、とても働きがいのあるところだと力説したことはしたんだろう、いまでもなぜか覚えているのが次のような新入社員の質問だった。

新入社員「編集現場のお話を楽しくお聞きしたのですが、配属先が、自分のやりたい仕事とはまったく違う部署で、おまけに、そこがすごくヤなところで、ろくな先輩もいない。そんな場合どうすればいいんでしょう?」

なんともナメたガキ、もとい、元気な新入社員だ。だいたい会社に入れただけでもありがたいと思えよ、それに、週刊誌なんだからヤなことあるの、当然でしょ。きついし。基本的に先輩なんてロクなもんじゃないし、甘ったれたことゆーんじゃないよ、配属先だって、希望が叶わないなんて当たり前じゃん、俺もそーだったし。と不快な気持ちになったのは、一方で、この質問が先輩社員の「いい話」の偽善的な急所を突き、本当のところはどうなんですか? と迫っていたからかもしれない。

で、どう答えたか?

わたし「配属先が希望と違うのはよくあること。しかし、そこがどんなところであろうとも、その職場で一生懸命仕事をすればいい。編集の仕事のみならず、社会人になることを登山にたとえれば、とにかく、登ることだ。山の麓には頂上にたどり着く、いろんな登山口がありルートがある。歩き始めたころは、いったい自分がどんなところにいるか、ほんとにこの道でいいのか、なんてさっぱりわからない。途中で道が崩れていたり、川に橋が架かっていないなんてこともあるだろう。でも、3合目、4合目と登って行くうちに、ふと立ち止まって周りを見ると、急に視野が開け、眼下に下界のパノラマが広がっている。
さらにどんどん登って行けば行くほど、いろんな登山口から登って来た人たちと、合流したり、お互いの来し方を相手を思いやりながら振り返ることができるし、わかりあえてくる。また、これからの行く末についても、まったく違うバックグラウンドをもちながらも考え方を共有できるものだ。だから、大切なのは、立ち止まらないこと、躊躇しないこと、前に進むことじゃないだろうか」

はたして質問の主は、納得したのかどうか、それはいまだにわからない。たとえ話で煙に巻いたのは、年の功、だけど、いまでも新入社員に同じ質問をされたら同じ答え方をするだろう。
「若い駆け出しのころ、コピー機やファクスなど事務機器を取り扱うリース業者から、売り上げを伸ばすにはどうしたらいいか相談をうけた」体験話を、誰もが知っている外資系のコンサルティング会社につとめていた知人から聞いたことがある。
切れ者なのだから、その会社の財務分析をやったり、社内ヒアリングなどして、ソフィスティケイトされた回答をしたんだろうと思っていたら、意外なことを口にする。
「じっさいにリースの得意先を回って、事務機器の営業をしたんですよ。そしたら20%くらい売り上げが伸びた」
では、どうやって伸ばしたのか? その方法というのは、魔法でもナンでもなく、どぶ板営業をやって、得意先の社長や社員と仲良くなることだったという。あえて戦略とよべるものといったら、得意先と親しくなってライバル会社のリース契約の期限を聞き出して、契約の切れる直前に、集中して新機種の売り込み&サービス&ほほえみ攻撃をしたことだというのだ。
外資系の花形職業、それも、数ある横文字企業のなかでもスマートなイメージのある元コンサルタントのエピソードは示唆に富む。
事務機器リースの熾烈な競争現場に、バツグンの頭脳をもっていても社会経験の希薄な男性が、「売り上げを伸ばす」というテーゼを机上でたてた策で解決しようとしたら、おそらく文字どおり、それは机上の空論になっただろう。
学校の勉強、机上では考えられないことがたえず起きるのが現場というものだ――わたしが感心したのは、彼のバツグンの頭脳は、ここでも正しい判断をした、つまり、まず現場に飛び込んでみる、というインテリにはそぐわない野蛮な方法を彼は選んだのである。
たぶん「若い」ということでいちばん大切にしなければならないことは、野暮を承知で野蛮なことを野外でやることではないだろうか?

つまり、本来、仕事というものは、社外に出て、たえず考え方の違う(つまり得意分野の違う)未知の人々と出会い、考え方をぶつけあい、新しいビジネスを手探りで開拓していかなければならないのではないだろうか。おそらく周囲を見渡せば、社内で、スマートに、無難なことをやっている先輩がたくさんいるだろう。それだけではない、自分自身も気がつくと、いつもと同じメンバーで、同じような仕事をしていて、たえず社内の軋轢を避け、社内政治と根回しに一日の大半を使っている――そんなことをやっていると、会社はやがて、下降の一途を辿り、業績は回復するどころか、悪化の根本原因を解決できないまま、無理なコストカットを繰り返し、製品は劣化し、売り上げは下がり続け、あげく社員同士その責任をなすりあい、内部から会社も社員も腐敗、崩壊していくだろう。

野蛮なことを野暮を承知で--いまの日本を見渡してみても、かつてのホンダやソニーのような、ダイナミックなことをやって、日本人を元気にしてくれる会社があんまりないように思うのは、わたしだけだろうか。日本の社会、あるいは日本の会社そのものも、野蛮で野暮なことを承知で果敢に挑戦していく精神を失ったのではないだろうか。たとえば、ソニーはウォークマンを世界中でヒットさせたのに、MP3プレーヤーをiPodに席巻されてしまったなんて、昔のソニーでは考えられないのではないだろうか?

昔のソニーなら、いまどんなものを作っているだろうか? 化石燃料の価格の乱高下、地球温暖化、不景気などなどで、自動車会社各社が低燃費なエコカーにとりくんでいるけれど、かつてのソニーなら、いまごろトヨタやホンダを出し抜いて、高性能な電気自動車を開発した、などという、とんでもなくエキサイティングなことをしてくれているかもしれない。というか、そうあってほしかったのだけど、現実のソニーは、大リストラの真っ最中なのだ。

だからこそ、この閉塞感に満ち満ちた不幸な時代は、いまの若い人にとっては大チャンスなんだ、と思う。あなた方の先輩たちは、みんなとっくのとうに「若さ」を失っている。おそれることはない。堂々と愚直に、野蛮で野暮なことを、刺激的な未知な人たちとの出会いを大切にして、実行すればいい。

でも、「若いうちは愚直に生きることが、大切だ」と説かれてみても、本当なんだろうか? と思うのも無理はないだろう。そんなことをしても、自分の才能を開花させ、自分を成長させることにつながらないのではないか、と。

「生まれつきの天才はいない」

最近、いっしょに仕事をしている、経済評論家・勝間和代さんが翻訳しているアメリカのミリオンセラー『Outliers 』(邦題『天才!』・講談社から5月発売予定)という本のキーメッセージである。

天才と呼ばれるスティーブ・ジョブズやビートルズも、彼らが成功したのは、毎日、練習を続け、人前で披露し続けたからであり、おおよそ「1万時間」の反復練習があって、はじめて才能は開花するものだとか。

おそれ多い天才たちほどでなくても、才能というのはおそらく野暮な練習を繰り返すことで作られるものだ、と、わたしは自信をもって断言できる。

愚直に努力することができる、というのも才能のうち、というか、これがいちばん大切な才能で、わたしの周囲を見わたすと、このいちばん大事なことができない、編集者やライター=書き手の方々が多いのも事実なのだ。


(加藤 晴之)



編集者になるために何をすべきか。もっともっと知りたい!というあなたには、『働く、編集者』第8章「週刊誌はどのように毎週作られているか」がおススメです。<br />
週刊誌とスキャンダリズムについて書かれています。

henshukaigi | 2009年4月29日 10:02

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